(1)木曽桧と漆
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私が生まれ育った木曽は「木曽路はすべて山の中」という島崎藤村(『夜明け前』)の言葉が ぴったりのところです。どこへ行っても、山ばかりで、平らなところはありません。山と山の間 の深い溝のようなところですが、関西と関東を結ぶ交通 の要所であり、中山道を通って人々が行 き交いました。 木曽の山々には、ヒノキを中心にした素晴
らしい針葉樹材があります。色や強度など、 品質すべての点で満点が取れる、世界に誇れ る材と言えるでしょう。木曽では早くから曲 げ(木を割って曲げたものを弁当箱などにし たもの)などの木製品をつくり、漆をかけて 生計を立ててきました(樹液から取った漆を そのまま2回ほど塗った初歩的な段階のもの を「春慶塗」といいます)。戦後、経済的に 成長して生活様式がアメリカ式になり、身の回りのものが次々に工業化され、伝統工芸は だんだんと廃れつつあります。 木曽は山国ゆえ、板造りの家が多いのです。クリの屋根、マツの壁、柱はモミやツガ、 しかしヒノキは使わせてもらえなかった。ヒノキは大変大事にされ、江戸時代には尾張 藩の直轄領として、明治になって帝室林野庁のものとなり、戦後は林野庁になって、今 も国有林として継続しています。そのくらいに、民間には渡したくない山であったのです。 |